マニラメガスタック 2023年2月 (1)

朝、目覚めてカーテンを開けると、雪が降っていた。

ここ連日、京都の雪と交通事情は全国ニュースになっている。先日も友人のMr.チャン氏が話題の山科駅で数時間、電車の中に閉じ込められたようである。

「明日から、マニラのメガスタックに行ってくるんやわー」

僕はこれから約一週間ほど海外に行くことを告げる。預かっていたバレンタインチョコを渡すため、海外出発日の前日にMr.チャンと待ち合わせをしていた。

「マジかー。てか、明日からまた大雪らしいぞ!ヤバいんじゃないか!?今から行かなくていいんか!」

とMr.チャン氏、やたらと脅してくるではないか。夜中の9時半に。

「まあ・・・なんとかなるやろ」

と、思っていたら、この有様である。屋根に雪が積もっている。大粒の雪が降り注ぎ、朝のニュースを彩っている。

そういえば、去年のフィリピンも天候に恵まれず、3つの台風が合体してメガ台風となり、帰国できなかった気がする。フィリピンとは相性が悪いのか、僕の徳が低いせいなのか、OH,Godと天を仰いでため息をつく。

念のため、予定より一本早いバスで向かうか・・・とバス会社に電話するも一向につながらない。5分おきに4回ほどかけたけどダメだ。ハルカにするか、在来線で向かうか、とああでもないこうでもないと悩んでいるうちに定刻になり、結局、予定通りのバスに乗った。

しんしんと雪が降る中、京都八条口のバス停を出発し、少し南に走ったところにある任天堂の本社を抜ける頃には雪のかけらすらなかった。市内の中心地から北だけが降っていたようである。昔のアニメにあった、自分の上にだけ雨が降っている表現を現実化させたような気分である。

無事に何事もなく、飛行機も飛び、すんなりとフィリピンについた。

年中夏のフィリピンでも月によっては若干の気温差がある。2月は乾季と呼ばれ、日本でいうところの初夏的な季節らしい。とても涼しくて過ごしやすい。

とはいえ、雪装備でやってきた服装では暑すぎるので、イミグレーションを出て、すぐにトイレに駆け込み、タンスで冬眠していた夏服たちに着替える。夏服たちも衣替え前に出番が来て、さぞ驚いているだろう。

空港の出口付近にたむろしているsimカード屋に声をかけ、現地simを購入する。携帯電話が海外仕様になったぞい。急いでGrabを立ち上げ、クレジットカード情報を入力。国内だとGrabのカード登録ができないのだ。

空港のタクシーなんて、99%がボッタクリなのだ。だから、基本的にはGrabで移動が最近の常識となっている。世の中、向こうからやってくるのは、大体、詐欺師か飛び込み営業か悪質キャッチかフィリピンのボッタクリタクシーと相場が決まっている。

余談だが、上記思想の持ち主ゆえ、前にスターバックスでコーヒーの出来上がりを待っている時に突然「今はお昼休みですか~」と中の店員(若くてキラキラした女性)に声を掛けられたことがあった。『こんな若くてキラついた女性がワイのような太った中年おっさんに声をかけてくるわけない=敵襲!』と使徒が到来したネルフ並みに警戒。

「あああ・・・はい・・・そうです・・・すいません」と不審者めいて、挙動不審な、なぜか謝るというコミュ障っぷりを遺憾なく発揮する。でもよくよく考えると『スタバの中の人が急に手相見始めたり、ラッセンの絵を売りつけてくるわけないか』と冷静になるのだが、最終的には大して気の利いた返答もできず、ミジンコのように小さくなって、僕は地球から消滅したのであった。

さて、フィリピンの空港タクシー乗りたくない症候群の僕は、意気揚々とGrabを立ち上げたわけだが、何回呼んでも「サーバーにつながりません」とエラーが表示されて車を召喚できない。

んー、空港だから?または夕方5時だからか・・・。たしか、コミケとかでも大量の人間(ヲタク)が一か所に集まると電波干渉がなんたらで携帯がつながりにくいと聞いたことがある。場所を変えれば解決できるかと思い、リゾートワールドの方へ歩いて、前回泊まった宿の近くでGrabを試してみるが、どうも上手くいかないので、環境のせいではないようだ。

いつものマクドナルドに入り、1億年ほど高性能な勘ピューターで検証した結果、支払い選択の部分でミスがあったことが分かった。

原因が分かったので問題も解決し、なんとかタクシーを捕まえ、無事にホテルに到着。

今回は101ホテルというSMモールというフィリピン最大級のショッピングモールの隣にある三ツ星ホテルである。いつもは一泊5000円前後のairBnBでアパートメントを借りているのだが、今回は大奮発して一泊1万円である。お小遣いは月3万円にも関わらず5泊もする。まるで富豪だ。

前回の台湾で近所をうろうろするのが、案外楽しかったので、場所もちょっとこだわってみたのだ。いつものカジノとホテルだけを往復する旅を見直したいのだ。定期的に人生を見直したいのだ。観光客のようにモールと海沿いの綺麗な景色を見てインスタに夕焼けなどをアップしたい。

ワクワクテカテカ(略してワクテカ)しながら鍵を受け取る。2階か。エレベーターの扉が開くと子どもたちの歓声が聞こえる。2階からプールに行けるようだ。あたりは薄っすらと暗くなり始めて、ナイトプール的な雰囲気になってきて子どもがはしゃいでいるのだろう。

部屋のドアを開ける。パっと見、綺麗だ。だが、水回りの部分が残念だった。塗装は剥がれ、シャワーとトイレを区切る扉がなく、ドアがうまく閉まらない。「まだ作りかけなんでぇ」と言い訳されても問題ないレベルに雑い。

試しにシャワーを出してみると、案の定、お湯が出ない。いっちょ前に水圧だけは確かだ。

だが、一番の問題は、騒音だった。

2階で道路に面した部屋。SMモールへ続く4車線の道に面しているので、30秒おきにクラクションやエンジン音が響きわたる。これなら、いつもの5,000円のほうがましなのでは・・・。

これはまずいと思い、すぐに行動に移す。ホテルに交渉すると、明日になら別の部屋を案内できるという。別の部屋で騒音問題がマシになりますように・・・。

実はまだ今日は終わりではない。なんと、夜の8時からのトーナメントに出場する予定だ。

今回の旅は、Manila Megastack(マニラメガスタック)と呼ばれる、ポーカースターズが主催する大会だ。ポーカースターズがマカオから撤退して、フィリピンのオカダマニラに居を構えて、定期的に大会を運営している。

参加費15000ペソ(日本円で約3.6万円)のキックオフトーナメントに参加予定だ。

このトーナメント、すでに前日にDAY1 Aを行い、昼にDAY1 Bを行っていた。僕が参加するのは最後のDAY1 C(ターボ)という「時間がない忙しいビジネスマン向け短縮トーナメント」みたいなものだ。15分でレベルが一つあがる。

ホテルの部屋変更などで時間がとられ、レベル2の残り5分というところから参加できた。

ハンドは悪くなく、レベル10までにKK,QQ,AK,AQとハンドが火を噴く順調な滑り出し・・・とはいえず、勝ったり負けたりしながら、ずっと原点の3万点周辺をうろうろしているだけだった。

途中、日本人でやたら上手なプレーヤーと同席することがあった。最近、どこかで見たことある気がするのだが思い出せない。ぞろぞろと日本人で群れているわけでもないので、専業なのかもしれない。後で調べてみたら、マークさんだった【twitter:  @Japanese Gambler(Mark)】。

最近の若者は強い・・・。少し前にKKプロの鈴木さんからも同じセリフ言っていたので本当である。この時は本人を特定できていなかったのだが、とにかく危険を察知して警戒。ポッドを大きくしないように気を付けないと(すぐに日和って降ろされちゃうので)。

レベル12(1000/2000)でテーブルが移動になった。ようやくハンドとボードが絡むようになり、5.3万点になり、レベル14では99のセットができてAヒットができたAKさん相手にダブルアップ。一気に11万6500点へと駆け上がる。

レベル17(3000/6000)

JQやQKでチップが半分になるものの、JJでダブルアップ。本日はまったくオールインが負けないぞ。こういう日は良い。負けるときは、AKがA8とかに負けちゃう。

レベル19 (5000/10000)

残り29人。本日は155人参加したようである。現在の僕のチップ量は105,000点。23人から賞金獲得で、その23人になるまで我々ポーカー戦士は戦い続けなければいけないのだ。

世の中は2種類の人間に分けられる。チップ量がショートの人間とそうでない人間に。たぶん僕はショート側の人間だ。とはいえ、アベレージが約16万点だから、みんなもチップがわりと厳しく、オールイン合戦が各地で繰り広げられている。

レベル20(6000/12000)

24人となり、ハンドフォーハンドになった。全員リシート(席順を決めなおす)となり、テーブル移動。過去にショートの人が8人ダブルアップして、上位に位置していた僕がなぜかバブルで飛んだことがあったことをふと思い出した。チャンスがあれば恐れをいなしてオールインせねばならぬ。

でも、勝手に誰かが飛んでくれたらいいのになぁと思って初手を開くと、AAが来た。

おいおいおい、フラグかな。ブログを面白く盛り上げて、そのまま爆発四散しろというフラグが立ってしまったのか!?

1日1万回、感謝のオールインを行っている成果をここで見せる時が来たのかもしれない。

感謝のオールインとは「気を整え→拝む→祈る→構えて→オールインする→祈る」の手順を1日1万回行う修行の一つである。最近は最後の祈る時間のみが伸びているのが悩みの種だ。

音を置いていくほどのあまりの速さのオールインに、テーブルのメンバーは何が起こったのか分からない顔をしていた。一瞬の間をおいて、驚く者、惚け顔の者、悔しがる者、「オレでなきゃ見逃しちゃうね」と言う者、各々がカードを捨てて、何事もなく僕が勝った。

「いやさね、AAなんよ、おっちゃん」

デヘヘと笑いながら、皆にカードを見せびらかすと「WOW」「NICE」「Storong」とイイネの嵐。承認欲求ゲージがMAXまで溜まり「いやぁ、それほどでもぉ」と謙遜したその時「おい、あっちのテーブルでオールインがあって、どうやらショートが飛びそうだぞ!!」とテーブルの半分の者が隣のテーブルに走って行く。

その中の一人、そそっかしい男がテーブルに派手にぶつかり、テーブルのチップの山々がド派手に、音を立てて崩れた。男は気が付かずに走っていく。

「おっちゃんな・・・AAやったんよ・・・」独り言を呟き、バラバラに散らばったチップを俯きながら静かに積み上げていると、隣のテーブルから歓声と拍手が沸き起こる。どうやら、賞金獲得(インザマネ~)が決まったようだ。

チップ山を崩壊させたそそっかしい男が戻ってきて「みんなー賞金獲得だぞー。って一体、何が起こったんだ!?チップがバラバラじゃないか!」と驚いた声をあげる。これは突っ込んだら負けなやつなのか。

なんにせよ、初日から幸先が良いスタートをきれた。あとは、賞金をどれくらい伸ばしていけるかだ。雪の京都からの移動、ホテルへの失望、トーナメントの参加と盛りだくさんの日々でクッタクタだ。

車の音がうるさい部屋に戻り、布団を被って丸くなって寝た。夢見は悪かった。

つづく