USOPハイフォン 1日目

ちょうど10年前の話になる。2014年、僕が華麗なる海外ポーカーデビューを果たした年に『逆境エブリデイ』というポーカー旅行エッセイが発売された。

その2年前に木原さんがWSOPを優勝し、アミューズメントカジノが大阪でぼちぼち開業され始めた、ポーカーが静かなブームと呼ばれた時期くらいの頃である。

今のようにポーカーが流行っていない状況で、あまりにも早すぎるポーカーエッセイを出した方の名は大川弘一氏と云ふ。史上最速上場や『IT起業家10人の10年』では、CAの藤田氏、DeNAの南場氏、ホリエモンらと同列に語られるほどの実業家である。

※ちなみに、掲載されている大川さんの写真は、ペルーでポーカーで負けて帰ってきて、機嫌が悪かった時の顔らしい(本人談)

その大川さんと僕はメル友である。

「メル友」とはリアル対面で喋ることなく、メールやDMのみでやり取りをしている友人のことだ。恰好よくいうと、電子文通。「この文章表現よかったね!ここが面白かった!」と年に数回、感想を頂いていた。直接お会いしたのは、京都のアミューズメントで一度だけ、数時間、同卓したくらいである。

その文通相手の大川さんが、ベトナムで開催されるポーカーイベントUSOPのアンバサダーになり「もりゃ~ま君、ドウ?」とお誘いを受ける。丁度、京都の友人に1年前から一緒に行こうとしていたフィリピンのトーナメントを、今年もドタキャンされ(3連続目)、ぽっかりと時間が空いていたので、喜び勇んで快諾。

偉大なメル友に会うためにいざ、ベトナム第4の都市ハイフォンへ。ベトナム開催オフ会である。オフ会とは・・・(以下略)

関空からハイフォンまでの直行便はなく、一度、ハノイで降りる。そこから車で2時間ほど東に進んだ、太平洋に面した港町がハイフォンである。イメージ的には横浜や神戸に近いのかも。

ハイフォンの会場までは、オンボロな電車で向かおうとしていた。予約もなしに東南アジアの電車に飛び乗り、時間に縛られず、のんびりと田舎風景を眺めながら、まるでバックパッカーのような旅をする。僕は自由気ままなスナフキンさ。頬杖をついたムーミンのように「ふふふ」とニコニコしながらネットのオンボロ電車の写真を見つめていた。

※ネットから拾い物の画像

そんな時「そういえば、どうやってくるの?ハイフォンまで迎えに行くよ(^ω^)」と大川さんから連絡が来る。「どうせお高いんでしょ・・・」と卑屈な笑みを浮かべながら返事をすると「送迎無料」というパワーワードが僕の心臓を打ち抜く。

関西から中途半端なタイミングで来る人間なんていないだろう。おそらく僕一人のためだけに車を用意してくれるというのだ。しかもハノイからハイフォンまで。これが資本を持っているカジノ系列の力である。これがアンバサダーの力である。アイアムVIP。

資本主義のカバに成り果てたムーミンは「フフフ」と高笑いしながら貧乏スナフキンを踏み潰し、オンボロ電車の旅を見切ったことは語るまでもないであろう。

空港に到着するとUSOPと書かれたプラカードを持ったおっさんがいる。「もりゃ~ま、the モリヤマさんですか」とハンドルネームまで予習されてる。「そうです、ワタシがもりゃ~まです」と志村けんみたいな挨拶になってしまい、なんか恥ずかしい。

もりゃ~ま専用車に揺られること2時間。うたた寝していたら、あっという間に会場へと到着する。

会場では大川さんが僕の到着を待っていてくれた。前回お会いしたのがコロナ前だったので、けっこう時が経っているが、事前に著書やネットのアーカイブを漁ってきたので、久しぶり感はあまりなし。ユーチューバーとかはこの感覚がもっと強いんだろうなと思う。

大川さんがスタッフに僕も紹介してくれる。本大会用のメンバーズカードを作る時だ。

「ミスターmoriyamaさん、ユーのメールアドレスの文字、moryama@~~だと、iが抜けてますよ?大丈夫ですか?(モリヤマではなく、モリャマになってるよ)」

と親切に指摘してくれるのだが「i(愛)を失ってしまった…それが…もりゃ~まなんです…」とアワアワしながら、中学2年生も驚くような発言をしている僕を見て「さすがだな」と男塾の雷電のように頷く大川さん。

「もりゃ~ま君・・・これを」と大川さんがNASAのワッペンを手渡ししてくる。よく海外トーナメントの大会名が記載されているワッペンを付けている人は多くいるが、NASAは見たことない・・・。

「NASAの人がポーカーしていると思われるだろうし、僕は、どちらかというとNASA寄りの顔しているので、勘違いさせてしまう恐れがありますよ!」丁重にお断りをすると、確かに、と納得して代わりに鴨のフィギュアをくれた。

※特級呪物だった

憧れの大川さんとの邂逅もそこそこに、しぶしぶ鴨を持って、ふらりと400ドルのトナメに参加。本当は18時からのオマハに出るつもりだったのだが、早く着いたので、ホールデムに変更したのだ。

増えたり減ったりしながら、ずっと原点付近をうろうろしている。

現在戦っている試合のレベル8あたりで、オマハが始まり、三井のように激しく後悔の念が頭の中を占領する。先生…やっぱりオマハが…やりたいです…。

そわそわしだすとダブルアップして、ついに原点を超える。マーフィーの法則ってやつか。(懐かしいね)

仕方ない、ホールデムも腰を据えてやりますか、と覚悟を決めた途端、ドロー大好きおじさんの57oにガットストレートを作られて無事に退場。(おのれ…マーフィー…)

※会場はこんな感じ

1時間遅れでPLO(ポッドリミットオマハ)に参加!カードが4枚だ!嬉しい!

1.8万点でスタートしたチップも受付終了時には4.5万点に。レベル10には9.5万点までガッツリ増えた。オマハしか勝たん。

レベル12の段階で残り18人。参加者は74人で9位からインマネだ。あと半分!

席の移動があり、上手な人が多く、チップ量も圧倒的なテーブルに来てしまった。哀れな僕はボコボコにやられ、チップが3.7万点まで減ってしまう。

PLOは3bbからでも逆転できる!粘りに粘って、レベル15までやってきた。生き残り12人。あと3人でインマネで僕が3番目にショートである。

2,000/4,000のレベルで、現在20,000点。AKJT9でプリフロップでオール・インすると、僕を飛ばしに二人がコール。ターンで僕のフラッシュが完成し、トリプルアップ!全員がため息をつく。(そういえば、試合内容は5カードPLOです)

レベル16 3,000/5,000 

僕のフロップナッツフラッシュにセカンドナッツが突っ込んできて、さらにダブルアップ。

僕を含めたショートが三人ダブルアップして、なかなか決まらない時間が続くが、レベル17でようやくインマネが確定。初日に駆けつけオマハが毎回調子良い。

インマネが決まると、すぐに覚悟を決める人がいる。二人がしびれを切らして飛んでいき、7人になって、ファイナルテーブルへ。

写真撮影が行われるが、僕だけ位置取りをミスしてしまい(一番左)、仲間外れのような構図になってしまった。カメラマンに小一時間説教をしたい。

ファイナルになったからか、初日の疲れと時間的な問題(眠い)と気のゆるみで、大ブラフをかまして、キャッチされて飛んだ。一番少ない、賞金を獲得してテーブルを離れた。

11時を過ぎるとホテル唯一のレストランも閉まってしまう。大川さんに助けを求めると、24時間空いている店を紹介して頂くが、これからタクシーに乗って10分そこそこの街まで行くのも若干面倒だし、ちょっとお疲れ気味だ。

ホテルの部屋に200円くらいのカップ麺が置いてあったはず。

背中を丸め、エースコックと書かれたロゴを見て、味の軸がベトナムに最適化されたラーメンを啜る。冷蔵庫に置いてあった120円のビールを開け、一気に煽る。

ふと顔を上げると目の前には鏡が設置されており、自分自身と目があう。10年前ポーカーを始めた頃より白髪が増えた。空になった缶ビールを軽く潰し、のそのそとした動きでベットに潜り込み、人知れず、静かに眠りについたのであった。

つづく