APTチェジュ2024.4(1)

4月下旬。チェジュ島。空港から外に出ると、ヤシの木がニョキニョキと生え、南国感たっぷり。風が吹く。ひんやり。韓国の沖縄と呼ばれているわりには肌寒く、上着を持ってこなかった僕は体を震わせ、隣のTシャツ短パンサンダルで水着持参の男も「案外、寒いな」とつぶやく。

この隣で佇む男、顔つきがフジテレビの伊藤利尋アナウンサーに似て、字名をアミーゴといい、国内の様々なポーカートーナメントで結果を残している。京都だけならトロフィー数ナンバーワンだろう。

今回の旅はこの服装を間違えたアミーゴと『アジアンポーカーツアーin韓国・チェジュ島(略称:APT)』に遠征することになったのである。

空港でAPTプレーヤー向けの送迎場所を見つけるのだが、車一台で80ドルかかるといわれる。9人乗りなので、人を大勢集めて割り勘をすればお得なのだが、我々2人だけだと、ちょっと割高感がある。

こんなこともあろうかと用意のいいワタクシ、韓国で人気No1のカカオタクシーのアプリをインストールしてきたのである。アプリを使って颯爽と配車!のつもりだったのだが、クレジットカード登録の画面で途中から韓国語になり先に進めず。だめかー。

結局、いつものUberでタクシーを呼んで、今回のホテル会場である『Jejyu Shinhwa World(シンワ ワールド』へ向かう。金額は31,000Wで、APTタクシーに比べるとずいぶんと安くなって、我々は小躍りして喜んだ。

世界中のどこのリゾート地も基本的には田舎を開発したようなところにある。済州島も例外ではなく、ホテルまで延々と自然の中を突き進んでいく。九州くらいの位置にある島なので、生えている植物もわりと日本に似たようなものが多い気がする。

「なんか、韓国に来たって感じしないよね」

「うん、京都の南丹市にでもいるような気分だ」

ぼんやりと外の景色を眺めていると突然タクシーの運転手が日本語で「アレ、競馬場」と発声した。

おお、と二人して競馬場を見るが、これ以上会話が発展することもなく、タクシー運転手との交流イベントはこれにて終了。おっさん二人でホテルに行くってことは、カジノ目的だと思われているのだろう。うむ、正解である。

空港から40分。ようやく目的のホテルに到着する。チェックインを済ませ、急いでカジノに向かう。時刻は夕方の5時。サテライトは間に合わなかったがPLオマハが7時半まで参加できる。この後も順調に飛べば、2つくらい参加できるトーナメントがある。さすがAPTやで。遊びやすさはどの大会よりも優れている。

カジノそのものはマカオやフィリピンなどと比べるとこじんまりした感じだ。韓国のカジノって感じ。ただ、ポーカー会場は十分と思えるほどの広さで期待が高まる。

僕はAPTジャパンには誰かしら知り合いがいる。まずはそのメディアブースに足を運ぶ。ここに行けば、もろもろの諸手続きを教えてもらえるはずだ。

「も・・・もりゃ~まッ!」APTのブースにはなんと、Fujiyaさんがいた!FujiyaさんはAPTジャパンの創立メンバーであり、僕のもっとも古い海外ポーカーの友人だ。

忘れもしない、2014年のAPPTマカオのメインイベントの時だ。生まれて初めての海外トーナメントなのに、隣の香港人のオバちゃんが延々と僕一人に喋り続け、壊れた目覚まし時計のように繰り返し「モンキーバナナはいるか?食え食え」とバナナハラスメントに耐えていた。その時に同卓していたのがFujiyaさんだ。

オバちゃんが飛んだことによって、あまりの嬉しさに思わず「くぅ~疲れましたw」と海外で初めて声をかけた日本人、それがFujiyaさんなのである。

10年以上もやっていると、様々な理由でポーカー辞めてしまう人を見てきたので、懐かしい人に会うと、ワイン漫画『神の雫』に出てくる神咲雫のように「おお…おおお…」とトランス状態に入り、無条件で感動してしまう。

いつも通り口下手の自分は、その感動を上手く伝えられず「ああ」とか「うう」とか言っている間に手際のよいFujiyaさんに「初回カードはここで」「レジストはここ」「両替はカジノレートよりよいところで」とテキパキと案内してもらい「オマハ、頑張っておいで!」と準備万端で無事に送り出される。

ポッドリミットオマハには、スタートから2時間遅れで参加。しかし、3万点持ちでまだ300/600というレベル。さすがAPT、ストラクチャーがゆっくりで遊びやすいと有名なだけある(二度目)!

しかし、レジスト終了前に飛んでしまう。なんとふがいない。何度もリエントリーできるほど資金は潤沢ではないので、次のトーナメントを待つ。

※最近見かけるネコ型ロボット、カジノでも大活躍。こっち見た!

次は「ノーリミットオマハターボ」である。オマハでノーリミットなんて、嫌な予感しかしない。初めて行うゲームなので、ポッドのコントロール方法が分からない。ただ、ドロー系で相手を下ろしに来る人が多そうだなと思う。コワイ。

ゲームが始まると予想以上に荒れるゲームだということが分かった。プリフロップで5ウェイオールインになる。参加人数も少なく、ここで勝てればかなり有利になる。2356で「下担当!」と叫びながら参加。案の定、相手はKKやQQ、AKなどの上のカードを持っている人が多く、ボードにも23と落ちて2ペアになるものの、最後にQが落ちてセットに負けた。

予算が潤沢ではないないはずなのに、チルってしまい、ワニワニパニックの怒ったワニのような目をしてリエントリー。

次はレジスト終了後までは生き残るのだが、ジェットコースターのようにチップが増減し、そのまま脱線墜落して終了。脳汁も出ないまま、お金が無慈悲に減っていく。

アミーゴも調子が悪いらしく、まったく勝ち進めていない。少し時間が空いたので、二人で晩御飯に行く。次の試合もあるので、さくっと済ませられるものがよい。

ハンバーガー屋の前で足を止めるおっさん二人。これほど簡単に済ませられる食事は、サンドウィッチとおにぎり以外はないであろう。しかし、我々が5秒以内に決断できない理由があった。

地味に高い。お値段が手が出せないほどではないのだが、じみーに高いのだ。

一番安いプルコギバーガーセットで13000W(訳1500円)。もちろん、日本の意識の高いハンバーガー屋もそれくらいはするところは多い。ただ、どうみてもショボイバーガーなのだ。

サラリーマンであるアミーゴとお小遣い3万円の僕は「高いね」「高いよね」と涙を流しながら、期待を裏切らないショボイバーガーを5分で胃袋に収めたのであった。

最後はスーパーハイパーターボNLホールデムという、5分でレベルが上がる、超特急トーナメント。よいハンドが入ったらオールインするだけのゲームだ。本大会初のホールデム。

A7でオールインしてきた人をA9でキャッチするが引き分けに。ATでオールインしてきた人をAJでキャッチするが、ランナーランナーストレートを引かれる。最後はAQがKKに負けて終了(ATで僕に致命傷を与えた同じ人に倒され、この人が優勝したような気がする)。

我々は予定通りに3つのトーナメントを無事に滑りきることができ、失意と疲れた体を引きずって部屋に戻る。(これが俗に『確認エントリー』と呼ばれるようになるのは、数年後先の話である)

※廊下の光の具合がカッコイイ。高いホテルに来たなと実感

帰り際、コンビニに寄り、朝食用のパウンドチーズケーキとバナナひと房、ビールとお菓子を購入。朝食の金額が1食6,000円くらいしたので、朝ごはんは適当に済ませようと事前にアミーゴと話していたのだ。

しかし、いざバナナを手に持って、これからの五日間に思いを馳せると、なぜか侘しい気持ちになった。「バナナは栄養価が高いんよ~~」と10年前のバナナハラスメントおばさんの幻影がちらつく。作り笑いで「朝はバナナだよな!」とアミーゴに明るく振る舞う。

実は二人は気が付いていたのだが、お互いその事実を口には出さなかった。この青々として硬そうなバナナ、明らかに食べごろではないことを。アラフォーおじさんたちの社会性。

ビールをグビリと飲み干し、すごすごとベットに入る。

仲間がいても、いつも通り、どんよりした感じでポーカー旅が始まったのであった。

つづく・・