ポーカー日記「WSOP ラスベガス編」 その1

WSOP

ワールドシリーズオブポーカー(通称WSOP)。ポーカーの世界大会。メインイベントの賞金は10億円以上。サイドトーナメントも数千万円にもなる、ポーカーをする人間ならば、誰しもが一度は憧れる大会である。

国内でも国外でもこれといった成績を残していないのだが、のこのことお金をばらまきにアメリカまで来た。まさに下手の横好きを具現化したようなものである。

WSOPは大体一か月半くらいの間、ずーっとやっていて、その折り返し地点のあたりに僕はラスベガスに着いた。

来る途中の飛行機の話になるんだけどさ。航空会社は大韓航空。ナッツリターン。ポーカー界では「ナッツ」とは最強の手のことであり、縁起がいい気がする。ソウル経由でMARSが流行っていなければ最高だったんだが・・・。

ボーディングが終わりそうな時点で、満席の状態の中、窓際に座る僕の隣だけが空席になっていて、10時間以上のフライトで隣が空いているなんてめっさラッキーやん!と珍しく関西弁で心の中で喝采を挙げていたのだが、不安そうな顔の中東のおっさんが隣にやってきた。

おっさんは席に座るなり、スチュワーデスに「嫁と子供と三人で座るはずだったはずなのに、バラバラなんだ!せめて小さい子供の隣に移動できないか」と青ざめた顔で訴えている。スチュワーデスも分かったと言うものの、飛行機は満席である。

ここで男気を出して「お子さんが心配ですね!僕が代わりましょう!」と言えれば虚栄心を満たし、さらに上手くいくならば、航空会社の人に感動されてビジネスクラスへ移動してくれるからもしれない、なんて馬鹿なことを考えていたんだけど、残念なことにおっさんはスチュワーデスに呼ばれ子供の待つ席に向かい、代わりに100キロを超えているであろう巨大な女性がやってきた。

親切な人やなあ、なんてしみじみ思っていたのも束の間、この100キロさん、このただでさえ狭苦しいエコノミーの席で、まるで猫のようにぐるりと横になって眠り始めるではないか。しかも僕の方の肘掛を枕にしてだ!気分はすでにアメリカンな僕は「OH….」と声にならない音を口から洩らし、定期的に体をブルブル震わせて、押し寄せてくる巨体から自分の陣地を守るはめになる。

しかも、なんということでしょう!後ろの席に座っている子供が100キロさんが枕にしている肘掛に素足を伸ばしてきたのである。100キロさんに遠慮して、小さくなっている僕の左ひじに地味にあたっている。さすがに足はないだろうと、少しイラっとしながら肘でビシバシ攻撃するも、寝ているのかまったくひるまなかった。そして、気が付けば、いつのまにか100キロさんの肉塊の下に埋まっていたのであった・・・。

そんなこんなで、悪条件の中、必死に目の前の映画を凝視したり自炊してきた漫画を読んでいると、ようやくアメリカ上空へ。気流が非常に悪かったのか、飛行機はけっこう揺れて、身体が宙に浮くことが何回もあった。そのたびに「ワーウ」みたいな小さな悲鳴があがり、後ろの目を覚めした子供の兄弟ははしゃぎだし、100キロさんは酔って吐き出した。

結局、一睡もできずボロボロの気持ちでマッカラン空港へ到着。何がナッツだ。

宿泊先にモーテルに着くと、同じタイミングで今回の旅の同行者である、ポーカー元プロのOさんと合流する。近くのレストランで二人で飯をたべ、近況を報告しあい、バドワイザーをぐびりと飲む。そして倒れるように寝る・・・はずだったのだが、時差ボケで数時間うたた寝レベルの睡眠がとれただけだった。

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(※懐かしのナチョスを酒のアテに)

徹夜明けの、身体がしんどい上に眠気のピークが過ぎてしまったあのけだるさの中、WSOPが行われている会場に行く前にシティバンクへ向かう。実はまだドルを持っていないのである。

為替手数料をケチる方法として、日本でFX口座で円をドルに換え、ドルをシティバンクの口座に入金し、そしてアメリカでドルのまま引き出す!というやり方がある。大きなお金も持ち歩かなくて済むし、いいことづくめじゃん、とノリノリでそれなりに面倒な手続きを日本で終えてきたのだ(特にシティバンクの)。

パラダイス通りにあるシティバンクに着くと、まだ開いていなかった。タクシーの運ちゃんが「空いてそうなところ、回ってやろうか・・・」と言ってくれるものの「ここで待つよ」と近所のサブウェイで、じっと息をひそめて待つ。

ようやく開き、目当てのATMを操作するものの、どうもおかしい。日本で引き出し金額を3000ドルMAXに設定してきたはずなのに、800ドルしか引き出せない。カウンターのおばさんに聞いても、シティバンクとシティバンクジャパンは違うからこっちでは分からん、と冷たくあしらわれる。仕方ないので800ドルだけ出金した。これから、毎日ここまでタクシーで来なきゃいけないのか・・・と暗雲たる気持ちでシティバンクを呪う。

心も体もふらふらしたまま、 WSOPが行われているリオの会場へ。

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僕がまず最初にエントリーしたのは、イベント42のテキサスホールデム(ストラクチャーが90分刻み)。ちなみに参加費は1500ドル。もちろん、持ち合わせていない。ポーカーしにきて、ポーカー出来なかったら何しに来たのかさっぱり分からない・・・。困っていると、元プロのOさんが気前よく貸してくれたので助かった。

さて・・・試合の方はぼんやりしているものの、ちまちまとったりとられたりしながら、チップが原点から平行移動を繰り返す。基本に忠実な人が案外多く、マカオで意味不明に覚悟を決めて大暴れする中国人のようなプレイをする人はいなかった。

JJを下ろされ、KKをナイスダウンし、AAをディーラーの配りミスで捨てさせられるなど、なかなか流れがこない(というか、ついていない気がする)。そうこうしているうちに15BBくらいになる。最後はフロップ開いてからの、僕がAのトップヒット(キッカーは9)相手はストレートガットフラッシュドロー。フロップでチェックレイズオールインで攻めたものの、ガットを引かれて、さくっとDAY1で終了。初めてのWSOPの試合はあっけなく終わる。

試合後。試合の手を捨てた時にネットで調べていた情報で、どこのATMからもお金が引き出せるらしいことが分かる。しかし、最初に試した機械はカードが反応しなかった。さらに、二つ目の機械は、途中でフリーズして動かなかった。不安で心が折れそうになりながら、三つめの機械でようやく2000ドル以上のお金を引き出すことができ、なんとか借金を返済することができたのであった。

その後、ホテルに戻って少し休んだ後、MGMのホテルに向かい1ドル2ドルのキャッシュを打つ。数時間うつものの、セットもフラッシュも一度もできず、こつこつとスチールした数ドル勝つだけで終わる。

くたくたになったので、そろそろ身体が悲鳴を上げて眠れるだろうと思って床につくものの、疲れすぎて眠れない。

同室のOさんのイビキをBGMに、暗い部屋の中でぼんやりと天井を見つめているうちに、外が明るくなってきた・・・。