「また、2位だったよ」と困った顔をしたおじさんと握手を交わす。そそくさとおじさんは壇上からいなくなった。ちょうど、タイミングよく同じ京都組のジャックさんが通りかかって一緒に喜んでくれた。後で写真を共に撮ろうと約束し、ジャックさんは参加中のトーナメントに戻る。
トロフィーはずしりと重く、ペタペタといろんな人の指紋がついている。ファイナルテーブルでチップなどを整理しているスタッフと一緒に持ってきたハンカチで、キュキュっとトロフィーを磨く。よし、ピカピカになった。
まだ写真撮影まで少々時間があるみたいだ。僕はトロフィーを鞄に忍ばせ、トーナメントに参加している知り合いのテーブルを練り歩く。
「・・・これ、なんだと思います」
と鞄からトロフィーをスっと取り出すことを4回くらい行う。見せられた人々は反射的に、または強制的に祝いの言葉を口にし、それをまた僕は「肩っすよwww」と定型文で返す様式美。うれしい。
カメラマンが到着。スターズ公式とsomuchポーカー、そしてあと一つのメディアの3人から撮影される。それから動画も撮った。優勝したことを周りに自慢しているわりには、なんだか色々と現実感がない。普段、写真を撮られなれていないので、表情が硬い。
嵐のように写真撮影や入賞手続きが終わった。緊張がとけたからか、猛烈にお腹がすいた。
サササとハンバーガーを詰め込み、特にすることもないので、次のトーナメントに参加することにした。
運が良い日を逃してはいけないのだ。
たまたまプレーヤーズキッチンで一緒になった京都の若者に「もりゃ~まさん凄いっす・・・優勝したのに、なんか冷静っすね」と言われるが、逆である。優勝して、なんかポーカーしなくちゃいけない謎のテンションに追い立てられているのである。
この日は「6+(ショートデック)」に1時間ほど遅れて参加。
ショートデックは、以前に参加したカンボジアでバブルで飛んでいる。その時に同卓したプロが凄く上手で、立ち回りがとても勉強になった。それを今回は試してみたいと考えている。
普段からショートデックは遊ぶことなく、オンラインもやらない自分としては、海外大会での経験がすべてである。なんやかんや、5回くらいはやってる気がする。
AKやQQ以下のポケットに過度な期待はしない。ストレート多め。オマハと同じで、プリフロとフロップで頑張りすぎるとすぐにやられる。中盤以降、スチールが超大事。TJが意外と強い。そして立ち回り方で差が出る。これらを意識してやっていこう。
レベル5くらいから参加したのだが、やはりテーブルには何人かプレイの方法を知らない人がちらほらいる。最初から入っていたら、もっと稼げてたかもしれない(たられば)。順調にチップを増やしていく。
参加人数が少なく、レベル9のレジスト終了時には残り15人。全体でも38人しか参加していない。これはまさか二つ目のトロフィーもあるか!?
レベル13の段階でもうバブルだ。38人の参加で6位から入賞。レベル14で特に僕が動くこともなくインマネ確定。ちなみにジャックさんもいる。そして、インマネ確定後、89でジャックさんからスチールを試みるが、KQで受けられ、まさかの8ヒットでジャックさんを瀕死においやる。すまん。
このままジャックさんは飛び、残りは5人。僕を含めた日本人3名とシンガポール人と韓国人の5人だ。全員、硬めに打っているため、しばらく膠着状態が続く。特に韓国人のプレーヤーは本当にプレミアムハンドしか参加せず、チップがギリギリまで減る、オールイン、AA、ダブルアップ。みたいなことを延々と繰り返している。
シンガポールの方がフロップ空いてからが毎回強気なので、一番やっかいだ。誰かとぶつかって飛んでくれないかと思っているのだが、なかなかしぶとい。
レベルが2つ3つ進み、じわじわとアンティが厳しくなってくる。日本人の方が二人飛び、残り3人となった。この時点で、僕が5割、韓国の方が4割、シンガポールの方が1割と現状で僕が優勢である。
まず最初に韓国VSシンガポール戦では、シンガポールの方が勝ち、全体の2割弱のチップを。次の日本VSシンガポール戦でもシンガポールが勝ち、僕は3割、シンガポール人が4割と並ぶ。
たぶん、焦ってしまったんだと思う。思わずQQでオールインすると、シンガポールの方のAJでコールされ、無慈悲にもAが落ちてしまう。運に頼ってしまった!最後の最後に、自分ルールというか気を付けてなければいけないことを失念してしまった。
目の前に2つ目のトロフィーが見えたのに、もう少しで手が届くところでミスプレイをして逃してしまった。チップリーダーになったり、FTの段階でテーブルを支配できていたのが、自分自身を調子に乗らせてしまった。
結果、ショートデックは3位で終了。本当に最後に気を抜いたのが、まずかった・・・。いろいろと悔いの残る負け方をしてしまった。オマハの時もそうだけど、夜中を過ぎると要注意だ。
日付が変わってしまったので、シンデレラタイム(確変)も終わってしまったのだろう。負けた悔しさとトロフィーを獲得できた嬉しさで、ツーフェイスみたいな歪んだ顔をして、岐路についたのであった。
次の日の朝、前日にSNSに優勝自慢をまき散らしておいたおかげで、お祝いのメッセージがたくさん届いていた。みなさん、ありがとうございます!
朝、エレベーターで一緒になった男が、あきらかにポーカープレーヤーの顔をしていたので、思わず声をかける。すると「君、優勝してたよね」と言われる。なんか有名人にでもなった気分だ。
歩いていける距離なのだが、この白人さん「暑いから車乗るんだけど、一緒にどうだい」と歩いて5分のところを贅沢に車移動。スペイン生まれで、仕事でシンガポールに来ているらしい。シンガポールからはベトナムとフィリピンにも数時間で行けるから、ポーカーやりたい放題だぜ、と自慢される。羨ましい。特にベトナムへのアクセスがいいのは超羨ましい。ベトナム好きなんだよね。
エグゼクティブな雰囲気を持ったスペイン人と分かれ、今日もトーナメントだ。
いざ試合が始まると、なんか、半ツキだ。KKがAAに負け、AAが29hに負ける。いくつかのハンドを負けて、ぼんやりしていると、隣に京都の鉄強で有名なFUKUMARUさんが座る。優勝のお祝いの言葉を頂き、さらに一杯奢ってくれるという。去年のAPPTも食事を奢ってもらった。いい人だ。
そういえば、狂ったようにポーカーをやっていて祝杯を上げていなかったことに気が付く。
「ビールください…(小声)」
いいですね!と満面の笑みのFUKUMARUさんとグラスを交わし、グイとビールを流し込む。
お昼すぎ、ほのかに暖かい日差しを浴び、プールサイドでヤシの木を眺めながらビールを飲む休日。急に旅の終わりを感じる。本日のこの試合が最後だ。昨日は上出来すぎる一日だった。
うむ。勝利のビールは旨い!
案の定というか予定通り、本日のトーナメントはレジスト終了直後くらいに終わる。これにて僕のAPPTフィリピンは終了である。そういえば一緒にやってきたLEJEのコロンビア君もメインイベントで入賞したらしい。めでたい。
実は2014年から海外ポーカーを始め、海外トナメは今回が初優勝である。10年間やってきてようやくとれたトロフィーだ(コロナや家庭の事情で4年くらい空いた時期もあったけど)
最近はオマハばっかりやっていて、直近1年もオマハでしかインマネできていなかったんだけど、改めてホールデムの面白さを再認識できた感じだ。
優勝写真の撮影の時の話なんだけど、大きな大会でも撮っているメインカメラマン、僕の友人たちを待たずに帰ってしまった。
ジャックさん達が集まった時、プロカメラマンの代わりに急遽チップを整理していたスタッフに撮ってもらった。実はその写真が一番いい写真だったのはいい思い出である。
なんだかんだ、今回の旅は、6位、1位、3位と3回ファイナルテーブルに出場、試合数も8個くらいで、いい感じの勝率である。
日本円にして賞金総額は120万円くらいだ。旅費や参加費を払ってもまだまだオツリが残る。夏の臨時ボーナスだ。お小遣い3万円の地方(京都)のおじさんにとって100万円は夢の金額である。へへへへ、にやけ顔で帰国。
関空に到着し、国内のsimカードを入れ直す。LINEニュースを見ると日経平均が歴史的な暴落らしい。
慌てて2か月前から始めた新NISAの口座を確認する。マイナス150万円という赤い文字。
関空1階のドトールの前で、思わず膝から崩れ落ちる。アイヤーーーーーッと声にならない慟哭が関空の吹き抜けに響き渡るのであった。そのまま、もりゃ~まはグッタリと目を閉じ、犬のパトラッシュ(二代目)と共に動かなくなったことは説明するまでもないであろう。
~fin~