レッドドラゴン(2015秋)~その1~

マカオ

初めてマカオに来たのは、嫁と香港旅行のついでに寄った時である。最終日に「僕は徹夜するから、ポーカーをさせてくれ!」と嫁に頼み込み、ウィンの50/100をへっぴり腰で打って、ビギナーズラックもあって10万円ほど勝ち越して帰ってきた。

二度目が去年の5月。日本人ポーカープロの木原さんの本を読んで「安宿に泊まり、キャッシュで稼ぎつつトーナメントに出る」を実践するため、宿も取らずに単身で乗り込む。ネットの情報が古く、あてにしていた宿はことごとく高くて路頭に迷い、キャッシュでは30万以上負けた。現地サテライトに通過して出場したメインイベントに運よく生き残り、インマネにしてギリギリプラス。

三度目と四度目は勝ったり負けたりして、そして、今回はついに五度目のマカオである。同じ京都のポーカーハウスから僕を含めて3人でマカオにやってきた。メンバーは、ラスベガスでも一緒だったOさん(現役ポーカープロ)と20代前半のY氏(初海外)。初老と中年と若者の幅広いレンジの組み合わせである。ポーカースタイルも三者三様だ。

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※そういえば、文章の感想は言われるが、あまり写真のことは言われたことがない。

今回、マカオで行われる大会は「レッドドラゴン」と呼ばれている。マカオの大会の中でもっとも参加人数が多い。年に2回行われ、過去に日本人が2人ほど優勝している。前回の3月に行われた大会では、優勝賞金が約3000万ぐらいで、おそらく今回の大会もそれぐらいの金額に行くのではないだろうかと思っているし願ってもいる。

大会自体はサイドイベントを含めると2週間弱ほどの期間行われている。メインのレッドドラゴンは参加人数が多すぎるため、DAY1を4日に分けて行われる。僕はこのDAY1の最後の日、DAY1 Dに合わせてマカオ入りした。

津々浦々でポーカーで遊んでいると(といっても関西圏だが)、知り合いが増えてくる。出国時、関空で和歌山や大阪のプレーヤー、3人ほどに会う。試合の時のハンドは鮮明に覚えていて「いやーあの時のアレはアレでしたねー」と喋ることができるのに、名前がまったく出てこない!けっこうな回数会っているはずなのだが、脳のリソースがポーカーのハンドにしか割り振られていないことに戦々恐々としながら世間話。おそらく相手も僕の名前を憶えていない。たぶん。

飛行機に乗ると、さらに知り合いや友人に出会う。みんな似たようなスケジュールを考えているなあ。

夜が更け始めた頃、マカオに到着。

この日は、5000HKのサイドイベントが行われる。少し遅れ気味にはなるが、レイトレジストで参加するためホテルにチェックインせず直接会場であるシティオブドリーム(COD)に向かう。数日前に来ていた長老のOさんと若者のY氏と合流し、挨拶もそこそこにすぐにテーブルに座る。

7500点持ちの30分回しのストラクチャー。あんまりのんびりとしていられない感じの点数だ。参加人数は280人、思っていたよりも多くてびっくりする。マカオのサイドイベントはエイヤッて気合を入れて突っ込んでくる人間が必ずテーブルに一人や二人はいるので、彼らと噛み合えば、がっつりとチップが稼ぐことができる。逆に引かれたら、さくっと終わってしまうのが辛い。

始まって1時間半。3Rほどの頃だ。さくっと引かれて飛んでしまったOさんが「いやはやー」とやってくる。「ホテル、チェックインしてる?(今日は3人で相部屋なのである)」「すいません、直接会場に来ちゃいました」「だよねえ。まだ9時半かあ。何しようかなあ」「どうせ、すぐに飛ぶと思うので大丈夫です」とデジャヴ的なやりとりをして、バカラへと旅立っていくOさんの頼もしい背中を見送る。

5Rほどのじわじわとショートの人が焦り始めるころ、誰もが喉の奥から欲しがる「AA」がやってきた。しかもポジションもボタンとよい按配である。ザガンのショートがオールイン!後ろのアベレージくらいの中国人男性がコール!アベ男、けっこう強そうだ。僕は4秒ほど悩んだふりしてオールイン。ショートは絶望的な顔になり、アベ男は苦悶で顔がゆがむ。チップ量は僕の方が少し多い。お互いそれほど大きな手を手にすることなく、平々凡々と生き残ってきた二人だ。欲を出してきてもおかしくない精神状態ッ!!アベ男、中国人らしい感じで、おっしゃこいやー!と腹をくくり僕のオールインにコール。ドヤ顔の我が「AA」を見て、うな垂れながら「QQ」をペロリ。ショートは「7K」。何事もなく、僕が二倍以上にチップを増やす。

Y氏も順調にチップを増やしているようだ。Oさんもふらりと帰ってきて、バカラで2000HKが8000HKになったらしく「トーナメント参加費は稼げた!もっかいバカラやってくる!」と楽しそうでなによりだ。

人数も順調に減っていく。日付も変わり、賞金なども発表される。32人から賞金発生で、1位は29020HK(約450万円)。50人くらいからみんなそわそわしはじめる。スターズのスタッフがのろのろと画面の人数を更新するので、いつも数人の誤差があり、なんとなくやきもきする。

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※5位くらいからぐっと賞金が現実離れし始める。

テーブル数が4くらいになって、Y氏も隣のテーブルに移ってきた。ちらりと覗くと、けっこうチップ持っている。初海外で初インマネ(賞金獲得)が近づいてきているので頑張ってほしい。謎の母性に目覚める。

しかし、他人の心配より自分の心配だ。後半戦は一回のミスで即死につながる。インマネまでの立ち振る舞いを考えなければいけない。じっくり待つか、攻めるべきか・・・。そんなことを考えていたら、いつの間にかインマネが決定していた。ハンドフォーハンドを1回しかやっていない。みんな攻めているのか、攻めあぐねてショートすぎる状態になってしまったのか。いずれにせよ、それほどチップを減らすことなく、インマネまで辿りつくことができた。ラッキーだ。

時折、様子を見にやってくるOさんも順調のようで、こちらに帰ってくるたびにバカラで勝っているらしい。

さて、残り3テーブルになった時だ。13BB程度になって、どこかで勝負を仕掛けなければいけない時がきた。手元にあるのは「JJ」。まあわりとよく死ねる手だ。ザガンからレイズが飛んでくる。めちゃくちゃロックな綺麗な女性がリレイズ。さて僕の番だ。どうしたものか。女性からは今日を通して「AK」と「KK」しか見ていない。相当強い手が入っているのは確かである。僕のテーブルイメージもそうとうタイトだと思われているから、オールインまで飛ばせば、ハンドレンジの広いザガンは降りてもらえそうである。チップ量が僕より多い女性とは一騎打ちか。

ここが勝負どきか。腹をくくってオールイン。予想通りザガンは降りて、女性も一瞬迷ったが、すぐにコール。

おそるおそる「JJ」のカードを僕がめくると、自信満々に女性が「KK」を開いた。「おお(またか!)」とどよめきが沸き起こる(3度目のKKだよ、まったく)。運命とは残酷なもので、勝利のなんたらは、美しい女性ではなく、デブの中年おっさんに「J」をリバーでプレゼントしてくれたのである、7時間ほどプレイして初めて相手にバッドビートをくらわすことができた。

ドヤ!Y氏よ!これが海外インマネ10回以上の男やで!(今のはラッキーやけどな!)と隣のテーブルにアイコンタクトを送ると、Y氏はちょうど二人のプレーヤーを飛ばしたところだった。「あ、チップリーダーになっちゃいましたー(ニコニコ)」と眩しい笑顔をよこす。この子、できる子やったで・・・。

その後もうまい具合にスチールのつもりのハンドがコールされ、フラッシュが完成したり、スチールのつもりのハンドがコールされストレート完成したりして、ぐんぐんチップを増やす。Y氏も調子がよいらしく、常にシーソーゲーム気味に二人のチップが追い越し追い越されたりして、増えていく。ちなみにずっとY氏とは同じテーブルにならない。

DAY1が終わる頃には、17人残り、現状1位がY氏、2位が僕というなかなかに面白い結果になった。日本人はこの二人だけである。チップをバッグに入れ、Y氏と共にニコニコしながらCODの会場を後にする。

ポーカーよりもグルメの方を優先させるOさんのお勧めの餃子を食べるべく、朝の4時くらいにホテルの近所の餃子屋へ。Y氏も僕もくたくたなのだが、ビールと餃子が身体に染みる。

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※ニラ餃子。

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※定番のトマト卵。これが本当に旨い。

さて・・・ホテルに戻ると、頼んでおいたエキストラベッドがない。

時間も時間なので(朝の4時)、ベッドも用意できないという。サウナに泊まるなり、部屋を取るなりといろいろ考えたが、とりあえず、掛け布団や枕など一式だけもらう。なんだかんだ、マカオ到着からそのまま8時間もポーカーをして、僕も疲れていたので、床で寝るというY氏に掛ける言葉がない。「一緒に寝るか!?」とOさんの温かい言葉にも「大丈夫っすよぉ・・・」と力弱く呟きながら、床に転がるY氏。やっぱり先にチェックインしとけばよかったなあ、と後悔するも5分で意識を失ってしまった。

そんな感じで初日はあわただしく過ぎていったのであった。